ヒトの日記を追いかけるだけのゲームで、ここまで感情移入するとは思いませんでした。 一流の脚本家が台詞を書いていたり、声優の演技が良かったり、 システム(レスポンス以外)が優秀だったりするのはあります が、これは日記形式の勝利でしょう。 そういうわけで、玲音の感情の起伏に一喜一憂するプレイヤー が出来上がりました。
他のアーティクルでも書いたのですが、私にとって日記を書き 始めた頃の玲音に引き込まれました。全体の雰囲気の中では 清涼剤のような部分です。
たぶん日記を書き始めた原因であろうキョウコちゃんとの話とかです。私の一番好きなのは、玲音がノートのお礼にケーキをご馳走しようと云う日記の所です。弾んだような感情のセリフは聴いていて心地よく、玲音が普通の女の子だと感じさせてくれました。
しかし、その直後には、手紙の一件から急激に落ち込んで いく玲音がありました。
そういう起伏を含めて、このへんの日記は小学生の玲音が表れたリアルなものだという印象です。
「人見知り的な性格であり、非常にセンシティブである」
このような流れはゲームの中盤で再現されます。お父さんが帰ってきて、中学校に行きだして、ミサトちゃんと仲良くなって、ミサトちゃんが転校して、両親が不仲になって、と云う部分です。
ミサトちゃんの存在が疑われていますが、中学校での出来事が小学校での出来事をなぞっているような気がしています。
「Close the world,Open the nExt」
中学では小学生の時の友達と一緒になりたく無いと言う玲音。
今までの世界を捨てて新しい自分になりたい玲音。
それは今までの自分の記憶がいらないと言うことなのでしょうか。違います。今までの自分の記憶の中で自分に優しかった状況が再現してほしかったのではないでしょうか。 もし、中学生時代の玲音の日記が創作なのだとしたら。
「あたしは、あたしだよね」
玲音がネットの世界にのめり込んだのも自然なことです。 リアルワールドが嫌だからワイヤードに逃げた。しかし、そこには、人なつっこくアクティブな自分。違う自分を発見できま した。
玲音はネットでもある事件から嫌になって止めようと考えた りしますが、幼少時からのドッペルゲンガー妄想(作中では、こんな言葉は出てきません。たんなる造語です)と関係があるのか、ネットでの人格がレインとして一人歩きします。
「両親とクライアントのみの核家族であり−−−」
よくある事ですが、離婚した夫婦が、小さい子供に、居なく なった片親は仕事で出張しているなどと騙すことがあります。つらい現実を伝える勇気がない親の逃げ道ですが。子供は普通あっさり信じ込んで、後で真実を知ったときに、とても傷つきます。
ゲーム中では、そんな記述はないし、たぶん考えすぎです。
でも中学入校前に帰ってきた父親さえも空想の産物だという解釈が思いつくほど、でもゲーム中盤では何がリアルなのか、私はまったく分からなくなりました。
中学生時代の記録が「全て」創作なのだとしたら。
「それは記憶?それとも記録?」
単純に考えれば、記憶を記録に残すのが普通です。 でも記録が記憶に成り代わることも、あり得るのではないで しょうか。玲音のような少女にとって。
「あなた、本当に玲音?」
柊子さんに逆にカウンセリングをほどこすときの少女は確かにレインだったと思います。
男のことばかり考えて、私生活の不安定さから玲音との関係を断ちたがった柊子に会いたくなかった玲音の代わりに、レイ ンが彼女を治そうとした−−。
最初の頃、柊子の日記はタカシのことばかりで、開ける気がしなかったです。
しかし、すがる物が何もなくなって切々としたこの頃の柊子の日記は、読むのがつらかいのですが、逆に続きが気になって仕方がありません。4種類の記録を平行して読むのが難しく、ある1つだけを追いかけてしまい、エンディングを観てしまった経験はありませんか?
ところで、柊子の最後のムービーと、最後の頃の柊子の日記で語られる内容に違和感を感じます。
レインのカウンセリングによって癒されたトウコ。彼女はいつから 日記を書いたのでしょう。そしてその日記が書かれたのはいつ?
柊子が2年先までの書いた覚えのないトウコの日記を読んだとしたら、そこに現れるレインは実体なのか、幻覚なのか。
「右から入ってくるの、多分。それで左から出ていくの、だから。」
だからー、出ていかないように、左の髪の毛で止めるのでしょ う。
でも、普通に考えると嫌なことが入ってくるのなら入り口をふさぎます。でも玲音は出口をふさいだ。
自分からみんなが離れていくのが怖くて、止めようとしたのでしょうか。おまじない?
毒電波(?)でさえも逃がしたくなかっ たのでしょうか。
自分だけ取り残される恐怖。または全てを取り込みたいとい う願望、そして
「Close the world,Open the nExt」
人工知能。
人格のエミューレーション。それともイミテーショ ン。
ドッペルゲンガー:同じ人物が同時に現れると片方は消滅する。
ワイヤードの思考ルーチンが本物となるためには、リアルワールドの存在は無くならねばならない?
思いこみ。儀式。
小学校を卒業して中学校に行けば・・・。
お父さんをリアルワールドに作っても意味がない。
逃げた母親。
残ったのは柊子さんとの繋がり。
柊子さんの記録。
トウコさんと一緒。
柊子さんも一緒?
「どうして来ないの?こっちに来ればいいのに」
拳銃。震える歯
「死ぬときー 痛かったよ(笑)」